子供を賢く育てる育児・教育法に興味はあるけど、早期教育は賛否両論、良かれと思ったことが正常な発達を妨げてしまったら…と躊躇してしまうお母さんもいるのではないでしょうか。そんなお母さんにオススメな教育カリキュラムが「心の道具」です。最近では、将来の成功・年収などは知能だけでなくセルフコントロール能力が関係していると言われています。心の道具は、早期教育にありがちな詰め込み教育ではなく、ごっこ遊びのような楽しい遊びを通して、子供のセルフコントロール能力を高める教育法です。

心の道具(Tools of the Mind)って何?

心の道具(Tools of the Mind)は、アメリカのメトロポリタン州立大学デンヴァー校の研究者、エレーナ・ボドロヴァとデボラ・レオングの両博士が1990年代に開発した保育園・幼稚園を対象としたカリキュラムです。

心の道具は実行機能を鍛え、幼児の幅広い能力(認知的・社会的、感情的、自己規制的、基礎的な学術的スキル)を開発するのに役立ち、アメリカでの実証試験で非常に高い効果をあげています。

アメリカの実証実験では驚きの効果

1997年 デンヴァーの公立校での試験

英語力が乏しいと評価され、1年遅れで幼稚園に入った子供たちを対象に実験。翌春の全国統一テストでは、心の道具クラスの子供たちは、遅れているどころか全国標準よりも1学年分も進んでいるという結果がでています。

2001年 ニュー・ジャージー州 新設保育園での試験

従来のプログラムと比較するためのニュージャージー州の新設保育園で行った試験では、実験が中止になるほどに高い効果を示しました。

低所得で、英語を母国語としない世帯の子供たちが70%を占める18の教室のうち、7つの教室で心の道具プログラムを実施。初年度の終わりの評価では、語彙やIQを含む7つの尺度で「心の道具」を実施した教室が格段に勝る結果となりました。また、「心の道具」を実施した教室では、子供の問題行動が全く見られなくなり、教室の様子がまるで違っていたと言われています。

もともと、2年間実施予定であったこの試験は、「明らかに優れているカリキュラムを半分の生徒から取り上げることは倫理に反する」という校長の判断から、1年目の終わりで実験を中止。全クラスで「心の道具」を採用することを決定する結果となりました。

ニュージャージー州ネプチューン 新設幼稚園での導入

その後、心の道具の実施校で校長をしていたサリー・ミラウェイによって開設された幼稚園で導入されます。ニュージャージー州で実施されている4月統一テストでは、この学区のリーディング平均が65パーセンタイル(偏差値54程度)に対し、心の道具カリキュラムを受けた生徒たちは85パーセンタイル(偏差値60程度)をマークしました。

アメリカでは優秀な子供をギフテッドと呼び、特別なカリキュラムで資質を守り伸ばす施策が取られています。ギフテッドは生まれつきの資質によるものというのが一般通念ですが、この実験を行なった学区でギフテッド判定された子供はほぼ全員、心の道具クラスの生徒という驚きの結果があらわれたそうです。

実証試験で実践されたカリキュラム

ここまで学力に影響するカリキュラムなので、先取り学習のようなカリキュラムを想像するかもしれません。しかし、「心の道具」の実証実験の内容は、遊びや日常のしつけの延長上にあるカリキュラムになっています。この画期的な教育法を、家庭での遊び・しつけに取り入れたいという方のために、実証実験のカリキュラム内容をご紹介します。

Play Plans

プレイ・プランは、いわゆるごっこ遊びです。ただし、子供の思いつきやその時の気分に合わせた展開ではなく、しっかりとした前準備・プレイプランに基づいて進めていきます。単純になりがちなごっこ遊びを、事前の学びやプレイ・プラン作りにより深化させ、長時間に渡ってなりきり・関心を持続させることがポイントです。

【前準備】

  1. ごっこ遊びの対象について勉強します。たとえば、消防士ごっこなら、家事が起きて消防士が助けにくるまでに、どんな人が関わりどんなプロセスを経るのか、どんな機材や道具を使うのかを学びます。
  2. ごっこ遊びの舞台を分けるための装飾を部屋に施します。たとえば、消防署や119のオペレーター室、助けを待つお家などです。
  3. 子供たちに、どの役がしたいかを選択させます。子供たちは自分のしたい役を一人一人先生に伝えにいきます。
  4. 子供たちはそれぞれプレイプランを作成します。選んだ役に扮する自分自身の絵を描いて、たとえ3歳児であっても先生に手伝ってもらってプレイプランを文章に書きおこします。

【ごっこ遊び】

  1. ごっこ遊びを始めます。45分間、プレイプランの役を忠実に演じます。気を散らした子供がいたら、「プレイプランにはそう書いてあった?」と先生が尋ね、役へのなりきりを促します。先生はファシリテーターに徹し、直接何かを教えることはしません。
  2. お片づけの歌のCDが流れ始めたら、遊びをやめて片付けを始めます。この際、先生は「片付けましょう」などの指示は行いません。

※同じ週の別の日には別の役を選び、同じ設定のごっこ遊びを繰り返し行います。

Learning Plans

学習プランを一覧化し、学習が終わったものについてチェックをつける表を子供達に作成させます。

The Freeze Game

音楽が止まったら動きを止めるというゲームを行います。

  1. 先生が音楽を流します
  2. 子供たちは渦巻き模様などいろいろな絵を描きます
  3. 先生が音楽を止めたら、子供たちも手を止めます。これを繰り返します。

Buddy Reading

バディーリーディングは、耳と唇の絵を持って、聞き役と話役に別れる訓練です。

  1. 子供たちは2人1組になって、向かい合って座ります。
  2. 片方の子供には唇の絵、もう一人の子供には耳の絵を渡します。
  3. 唇役の子供は絵本をパラパラめくりながら、挿絵から思いつく物語を話して聞かせます。
  4. 耳役の子供はじっと耳を傾けて最後にその物語について1つ質問します。
  5. 唇と耳の役を交代します。

The Numerals Game

子どもたちは「プレーヤー」と「チェッカー」の役割を交互に担当します。

  1. プレーヤーはカードを受け取り、そこに書かれた数の小さなテディベアをカップに入れます。
  2. チェッカーはカードの数字と同じ数ドットが並んだチェックシートにテディベアを乗せます。

テディベアが余ることなく全てのドットが覆われた場合、子供たちは数字を正しく理解しています。

Scaffolded Writing

心の道具では、まだスペルがわからない子供たちにも、計画したことを紙の上に書き留めることを求めます。子供の発達レベルに応じて、音からスペルを想像して書き起こします。就学前の幼児は、物語を追加したり考察を書き起こすなどより高度なライティングを行います。

  1. 教師が架空のストーリーを彼らに読み聞かせします。
  2. 子供達は、その物語の要約や、覚えておきたい内容を書き起こします。
  3. 書き起こした内容を友達と交換し、書いてある内容を推察し合います。

家庭での取り組み

上記カリキュラムは、子供の集団教育の中での取り組みのため、子供同士の関わりをベースに設計されています。そのため、ひとりっ子など子供が1人しかいない状況の中では難しい面もあります。では、母と子の関係の中で「心の道具」の要素を取り入れた子育てをするにはどうすれば良いのでしょうか。アメリカの公式HPでは、推奨する家庭での取り組みが紹介されいるため、その内容についてご紹介します。

独り言を促す

私たちは電話番号など情報を覚える際、何度も反芻して覚えますよね。子供たちも記憶するため同様のプロセスが必要ですが、まだ頭の中だけでは行えないので声に出す必要があります。新しいことを学んだ際には黙ったまま覚えようとするのではなく、友人やぬいぐるみに話を聞かせたり、声に出して繰り返し口に出すことを促してみましょう。

ごっこ遊びのサポート

子供が自己規制行動を実践するにはごっこ遊びが有効です。日常的な家庭用品を使用する方法を教えたり、ごっこ遊びの対象となる職業について知る機会を作りましょう。また、ごっこ遊びの相手役となり、子供が美容師を演じている時には顧客に、医師を演じている時には患者となり、物語のサポートをしてあげてください。ごっこ遊びの時に声色を変えるなど役になりきる方法を教えたり、シナリオを外れてしまいそうな時には展開を思い出させてあげるなど、ごっこ遊びを通してシナリオを考えやり通すことを支援してあげてください。

計画して行動する姿を見せる

子供が計画性を身につけるためには、親が実際にやって見せることが効果的です。たとえば、スーパーに買い物に行く前に買い物リストを作成したり、カレンダーで予定を管理する姿を見せる事で、子供が計画を書き記して管理することを覚えるサポートになります。

子どもの計画を支援し、意思決定に子どもを含める

子供の活動を子供自身で計画させるようにしてください。たとえば、動物園に行く前に見たい動物を絵に描いてリスト化することも計画です。この際、大人は計画が合理的になるように子供を導いてください。
歯磨きや着替えなどの生活上のタスクも、子供がいつ・どのようにするかを計画します。この際、子供が自主的に行動に移す仕組みを考えます。例えば、親が子供に就寝時間を知らせるのではなく、就寝の数分前に、目覚まし時計やタイマーを設定して寝る時間を知らせます。
年長の子供たちは、買い物リストを考えたりカレンダーで自分のイベントをマークするなど、自分で計画・管理する範囲を広げていってください。

集中できる環境づくり

テレビの付けっ放しやいつでも起動できる状態のゲーム機など、室内に興味を引くものが複数存在する場合、子供が長い間活動に集中する習慣を身に付けるのは難しくなってしまいます。

気を散らせず集中できる環境を作ることで、子供の自制・執行機能を高めましょう。

レバレッジプランニングを行う

子供とお出かけする際に、その予定の中で子供に欲求が生まれそうなことに対して事前に約束をし、それを守らせることで実行機能を鍛えます。

例:食料品店での買い物

事前に「今日はお菓子を買うつもりはありません」など、約束事を決めます。店内で「お菓子についてのお約束覚えている?」親は子供がルールを覚えているか確認します。

実行機能の育成を支援するゲーム

子供たちの実行機能を鍛える良い方法は、ルールを守るゲームをすることです。

  1. 指導者の指導のもとに、子供がさまざまな行動をやめたり始めたりするゲーム(ストップアンドゴーやフリーズ)
  2. 特定の属性に注意を払い他の属性を無視するゲーム(例えば車に乗っているときに、赤い車を見たら子供たちは拍手をするゲームなど)

ゲームが簡単すぎるようなら、複数のルール(赤い車は拍手、青い車はスナップなど)にすることで難易度をあげます。これらのゲームは、レストランやスーパーマーケットで待っている間など、どこでも取り組むことができます。

まとめ

「計画やルールを設けて、それを守る」という取り組みを、ゲームなど子供達が好きなことを通して訓練する「心の道具」をご紹介しました。読み書き計算などの学習系の早期教育はまだ早いかなと思っているお母さんも、子供との遊びやしつけの中で取り入れやすいのではないでしょうか。日本に昔からある遊びの中にも、数を学ぶゲーム、ルールを守るゲームなど、本質の近い遊びがありますよね。「長期的な目標に向かって今を頑張る力」を身につけ、「夢を叶えられる大人」になるために、実行機能を育てる取り組みを意識してみてはいかがでしょうか。

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